2026年5月10日

睡眠時無呼吸症候群(SAS)という呼び方が日本では一般的ですが、DSM-5(精神疾患の診断・統計マニュアル第5版)では、呼吸関連睡眠障害群に分類され、閉塞性睡眠時無呼吸低呼吸とされています。
SASが社会的によく知られるようになったきっかけは、山陽新幹線での居眠り運転(2003年)、名神高速道路での多重衝突事故(2005年)、群馬県高速ツアーバス事故(2012年)などの公共交通機関における事故でした。いずれも、運転士の居眠り運転とその背景にあるSASに注目が集まりました。海外でも米スペースシャトル「チャレンジャー号」爆発事故(1986年)、チェルノブイリ原発事故(1986年)、客船「スター・プリンセス号」座礁事故(1995年、アラスカ)[i]など、睡眠障害が関与したと考えられる重大事故は多数存在します。
もうお分かりの通り、SASによる日中の強い眠気、集中力の低下などから、仕事や家事の効率低下を招くだけでなく、居眠り運転による交通事故や労働災害などの事故につながるリスクが高くなります。そのいずれも、SASの治療ができていたら防げただろうと考えられるのです。
さらには、他者に対する事故の影響だけでなく、ご自身の病気や生命予後(寿命)にまで重大な影響があることがわかっているのです。SASは心筋梗塞や狭心症、心不全[ii]、脳卒中、全死因による死亡[iii]のリスクを高めることが知られています。
このように、SASは社会的にも、ご自身の病気や寿命にとっても、重大な影響をもつ反面、適切な治療を受ければ、それらは改善され ることもわかってきています。
ずいぶん前から、持続陽圧呼吸療法(CPAP)によって生存率が改善するという論文[iv][v]が多数ある一方で、さほど改善しないという論文[vi]も多数あり、決着はついていませんが、様々な論文が発表されるにつれ、近年はCPAPによって生存率が改善するという認識へ傾きつつあるようです[vii]。
数ある論文の中に、日本から発表された論文があります[viii]。この研究ではCPAP使用者群はCPAP非使用者群に比べて生存率が有意に高いことが示されました(図)。
つまり、SASの治療をするか否かが、生存率(寿命)に影響し得るほど重大であることがおわかりいただけると思います。いびき、日中の強い眠気、集中力の低下といったSASのサインを軽視せず、きちんと治療につなげることが、睡眠の不調と心の不調を改善し、さらには長生きにつながる可能性があるのです。
治療可能かつ予後(寿命)改善可能とわかっている疾患は、実は多くはありません。そんな中で、SASについてはこれだけのエビデンスがあるのですから、放置するのはもったいないですね。

Nakamura K, et al. J Clin Sleep Med. 2021
[i] 一般財団法人運輸・交通SAS 対策支援センター
https://www.sas-support.or.jp/column/sas-overseas/
[ii] Gottlieb DJ, Yenokyan G, Newman AB, et al. Prospective study of obstructive sleep apnea and incident coronary heart disease and heart failure: the sleep heart health study. Circulation. 2010;122(4):352–360.https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC3117288/pdf/nihms221493.pdf
[iii] Yaggi HK, Concato J, Kernan WN, Lichtman JH, Brass LM, Mohsenin V. Obstructive sleep apnea as a risk factor for stroke and death. N Engl J Med. 2005; 353(19):2034–2041.https://www.nejm.org/doi/pdf/10.1056/NEJMoa043104
[iv] Marin JM, Carrizo SJ, Vicente E, Agusti AG. Long-term cardiovascular outcomes in men with obstructive sleep apnoea-hypopnoea with or without treatment with continuous positive airway pressure: an observational study. Lancet. 2005;365(9464):1046–1053.https://www.thelancet.com/journals/lancet/article/PIIS0140-6736(05)71141-7/abstract
[v] Dodds S, Williams LJ, Roguski A, et al. Mortality and morbidity in obstructive sleep apnoea–hypopnoea syndrome: results from a 30-year prospective cohort study.ERJ Open Res. 2020 Sep 14;6(3):00057-2020.https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC7487348/pdf/00057-2020.pdf
[vi] McEvoy RD, Antic NA, Heeley E, et al. SAVE Investigators and Coordinators. CPAP for prevention of cardiovascular events in obstructive sleep apnea. N Engl J Med. 2016;375(10):919–931.https://www.nejm.org/doi/pdf/10.1056/NEJMoa1606599
[vii] 睡眠時無呼吸症候群(SAS)の診療ガイドライン2020 「CPAP療法はOSAの心血管障害関連パラメータを改善する(エビデンスレベルA)」「CPAP療法は使用状況が保たれていればOSAの予後を改善する(心血管イベントを抑制する)可能性がある(エビデンスレベルB)」https://www.jrs.or.jp/publication/file/guidelines_sas2020.pdf
[viii] Nakamura K, Nakamura H, Tohyama K, et al. Survival benefit of continuous positive airway pressure in Japanese patients with obstructive sleep apnea: a propensity-score matching analysis. J Clin Sleep Med. 2021 Feb 1;17(2):211-218.https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC7853214/pdf/jcsm.8842.pdf